
野球とソフトボールは北京大会では実施されるようですが、次のロンドン大会では行わないそうですね。何故ですか? 復活の見込みはないのですか?
日本でポピュラーな競技である野球とソフトボールは、残念ながら2012年の第30回ロンドン大会では行われません。野球がオリンピックの仲間入りを果たしたのは、1992年の第25回バルセロナ大会、ソフトボールは96年の第26回アトランタ大会のときです。日本はこれまで、野球では2位、3位、4位、2位、ソフトボールでは4位、2位、3位の実績を残しており、今年の第29回北京大会でも、“メダル獲得有望競技”です。
1980年にIOCのトップに就任したファン・アントニオ・サマランチ会長は、オリンピックを大きくし、世界最大の行事にすることに努力をしてきました。オリンピックのバイブルともいうべき『オリンピック憲章』で、「オリンピアード競技大会に含めることができるのは、男子では4大陸、75カ国以上、女子では3大陸、40カ国以上で広く行われている競技のみとする」と定めながら、実際にはその規定に満たない競技までを強引に、“オリンピック競技”に引きずり込んだ形跡があります。
ところが、サマランチ氏のあと2001年にIOC会長に就任したジャック・ロゲ氏は、オリンピックの巨大化・肥大化の傾向を懸念し、その防止策を打ち出しました。つまり、歯止めをかけようとしました。そこで出てきたのが、現在実施されているオリンピック競技の見直しで、野球とソフトボールがやり玉にあがったのです。
もっとも野球もソフトボールも、オリンピックの正式競技となったことで、両競技の国際競技連盟、すなわち国際野球連盟(IBAF)、国際ソフトボール連盟(ISF)とも世界的な普及を進め、現在では両連盟に100以上の国内競技連盟(NF)が、加盟するまでになりました。つまり、男子では「4大陸、75カ国以上」(野球)、女子では「3大陸、40カ国以上」(ソフトボール)の条件を満たしております。
問題は、野球に関していえば、実際のところ、4大陸に普及しているかどうかにあると思われます。確かにアメリカ大陸の北部と中部、アジア大陸の東側、オセアニア大陸のオーストラリアでは普及しているものの、ヨーロッパ大陸ではひとにぎりの国々でしか行われていません。ましてや、アフリカ大陸では、まったくといっていいほど普及していません。それに加えて、スペースの広い競技場、多くの用具を必要とします。そのうえ競技ルールが複雑で、すぐにはなじめないという欠点があります。さらに世界でもっとも普及し、盛んなアメリカが非協力的で、大リーグは選手を出そうともしません。また大リーガーのドーピング問題も内在します。そのような諸々のことが山積しているために、オリンピックのプログラムから削除されることになったのでしょう。
ソフトボールは、よく野球の女性版ともいわれておりますが、必ずしもそうではないかもしれません。野球に比較すると、ヨーロッパでは普及しておりますし、実績もあります。が、知名度が低いことと、野球のあおりをこうむったことは否定することができません。
執筆者:伊藤公(いとう・いさお)プロフィール
1935年生まれ。明治大学文学部卒。出版社を経て66年より日本体育協会・日本オリンピック委員会(JOC)に勤務。その大半を国際部門で過ごし、80年のモスクワ・オリンピック時は国際課長だった。91年、独立しフリーのオリンピック評論家に。72年の札幌冬季大会時よりオリンピックに携わり、現場での観戦・取材は夏季・冬季合わせて10大会に及ぶ。日本スポーツ学会(スポーツ・ネットワーク)運営理事、日本スポーツ芸術協会、日本オリンピック・アカデミー(JOA)各会員。共著・共編著は『オリンピックの本』(サイマル出版会、1986年)、『近代オリンピック100年の歩み』(ベースボール・マガジン社、1994年)、『ポケット版オリンピック事典』(楽、2008年)など多数。ネット情報は『モスクワ五輪ボイコットの真相』(http://blog.livedoor.jp/itoko2/、2005年11月1日〜06年3月17日 全137回)など。